先立たれる不安 今できることは
夫婦で家計共有 片付け機に 自宅か住み替えか 早めに判断
妻と2人で暮らしている70代の男性です。お互い健康面に不安があり、どちらかに先立たれたときのことを話すようになりました。片付けや家計管理など妻に任せていることばかりで、困ることが多そうです。今から夫婦でできることや話し合うことはありますか。
辻純一郎さん(80)は妻(76)と2人暮らしだ。「そろそろ自分たちのこととして考えなければ」と1月、千葉県浦安市で開催された生前整理の講座に参加した。40年以上暮らす戸建て住宅には物がたまる一方だ。「妻よりも長生きする気がする。妻が元気なうちにできるだけ物を減らしたい。バリアフリーに対応できるようにする意味もある」と話す。
「大切なものは誰が見ても分かるように保管しておく」と渡部さん。特に印鑑や通帳、クレジットカードなど大切な物をどこに保管しているかは配偶者に伝える。使わない通帳やクレカなどは解約し、必要なものだけをひとまとめにする。
家計簿は見える場所に
ファイナンシャルプランナー(FP)の横山光昭さんは月に1度、「マネー会議」を開き、子どもがいれば同席してもらうことを勧める。家族全員で家計を把握するためだ。会議では1カ月の収入や支出、貯金額などを「見える化」する。その機会がないまま家計を管理していた配偶者が亡くなった場合、家計簿や通帳など残された糸口から1カ月でどのくらい使っていたかを割り出すしかない。
そのためにも家計簿は紙で残し、お互いの目に入る場所に置く。「家計簿アプリなど電子化されたものはパスワードを求められることもある。どういう資産があるかも含め、紙ベースで書き出したほうが共有しやすい」(横山さん)
横山さんは「会社員の夫が亡くなった場合、会社で加入していた団体保険や退職金はどうなるのかといった不安が生じる。夫がどれだけの資産を持っているか、妻には見えていないケースもある」と指摘する。こうした情報も夫婦のみならず、子どもを含めた家族で共有することを勧める。
介護見据えてリフォームも
片付けや家計の共有が進んだら、終(つい)のすみかについても夫婦で考えよう。配偶者に先立たれた場合、いまの住居スペースは広すぎるかもしれない。選択肢は(1)元気なうちに住み替える(2)今は自宅で暮らし、介護が必要になったら介護施設に住み替える(3)このまま自宅に住み続ける――などだ。
シニアの住まいに詳しいエイジング・デザイン研究所(和歌山県上富田町)代表の山中由美さんは「住み替えやリフォームをするなら75歳までが適齢期だ」と話す。複雑な契約や手続きに体力や理解力が必要になるからだという。住み替える際はパンフレットやホームページを見るだけで入居先を決めるのではなく、実際に足を運んで確かめる。予算はどれくらいか、住み慣れた地域か、家族は近くに住んでいるかといった条件を加味して判断する。
配偶者との思い出も詰まった自宅に住み続けるならば、介護を見据えたリフォームが必要になる場合もある。過度なバリアフリー仕様のリフォームが逆に体を弱める原因にもなりかねない。早いうちに取り付けた手すりが数年後の介護状態によっては邪魔になることもある。リフォームする時点で何が必要なのかをしっかりと判断したい。
「買い物難民」避ける
シニア女性の意識調査をするハルメク生きかた上手研究所所長の梅津順江さんによると、車を運転していた夫が亡くなり、移動手段に困る女性が少なくないという。特に公共交通機関のダイヤが縮小されたり、コミュニティーバスが廃止されたりしている地方では「買い物難民」になるケースもある。「買い物代行サービスやネットスーパーなどの利用に慣れておくといい」(梅津さん)
不幸にも配偶者が急に亡くなる事態が起きても、夫婦で前もって情報を共有していないと残されたほうができることが限られる。事前に何を伝えておくとよいか改めて把握し、必要になる備えやサービスを見直しておきたい。
(浜野琴星)