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銀行に告げてはいけないこと

こわいですね。

父急死で預金が下ろせない!「口座凍結」の恐怖

 父親が入院先で亡くなったのは昨日のことだ。臨終の枕元で泣き崩れる母親の背中をさすりつつ、鈴木ケンスケさんは「自分がしっかりしなければ」と必死に自らに言い聞かせた。さしあたって葬儀代はどうしよう。母親の生活費など、当座かかる費用もある。「母さん、とりあえず、親父の通帳と印鑑を持って銀行に行ってきて。現金を引き出しておかなきゃ」

ところが、しばらくすると母親から携帯に連絡が入った。何やら慌てふためいている様子だ。

「ちょっと大変!お父さんのお金が引き出せないのよ。銀行の人がいうには、口座はしばらく凍結されるんですんって。ほかの口座もみんな使えないわ。いったいどうしたらいいの」

親父の口座が凍結!? 家族の大切な財布なのに!?――ケンスケさんは頭が真っ白になってしまった。

名義人の死を伝えてはいけない?

新聞死亡欄や人づてなどで名義人の死亡を知ると、銀行はただちに口座の凍結をおこなう。ケンスケさんのお母さんのように、家族が銀行窓口に行き、「名義人が亡くなったので、代りに私が預金を引き出したいのですが」などと言ってしまった場合も同じだ。

凍結が行われ、預金が動かせなくなると、あれこれやっかいな問題が生じることになる。生活費を引き出せないだけでなく、公共料金、家賃や駐車場代、ローンなどすべての引き落としがストップしてしまうのだ。そのまま滞納が続けば、電気やガスなどのインフラすら使えなくなる、という悲惨な事態に陥りかねない。

多額の出費を迫られることもある。斉藤ノリコさん(仮名・48歳)が慌てたのは、名義人が亡くなれば口座が凍結されることを、前もって知っていたからだった。

父親は1年前にガンを発症し入院していたが、ここのところ容態が急速に悪化している。医師から危篤を告げられたとき、混乱する頭の隅で考えたのは「医療費はどうしよう」ということだった。

なにしろ通帳や印鑑のありかもわからない。たとえ発見したとしても、口座が凍結されてしまえばお金を引き出せなくなってしまう。入院の連帯保証欄にはノリコさんの名を記入していたため、本人が支払えなければ、ノリコさん宛の請求書が届くことになる。

病院の会計係に問い合わせると、個室に入院していたこともあって、先月分だけで87万円かかっていた。今月分と合わせるといくらになるのか――。へそくりだけでは、とうてい支払い切れそうにない。

凍結解除に7年かかったケースも

家族が困ることをわかっていながら、銀行はなぜ口座を凍結してしまうのだろうか?

「預貯金は相続資産の一部。たとえ必要に迫られた場合であっても、本人以外の人が引き出すとトラブルのもとになります。ですから名義人が亡くなったことがわかると、銀行は即座に口座を凍結し、相続手続きが完了するまでは、一切引き出すことができないようにするのです」

こう説明するのは、相続問題に詳しいファイナンシャルスタンダード代表取締役社長の福田猛氏だ。

問題は相続手続きが意外と手間取ることだ。

「遺産分割協議書を作成するには、相続人全員の実印が必要。中にはどうしても連絡が取れない人もいるかもしれません。仕事が多忙だったりして手続きが進まない場合もあるでしょう。また、遺言書を書いていないケースでは、どう分けるかで揉め、なかなか手続き完了に至らないこともあります」(福田氏、以下同)。

その間、亡くなった親のお金は使えず、周囲が立て替えたお金を清算することもできないわけだ。なんと解決までに7年かかったケースもあるという。

「親の代わりに資産運用」はNG?

親に万が一のことがあれば、証券口座もまた凍結される。この場合の「万が一」というのは必ずしも死亡だけをさすのではない。たとえ身体は健康でも、認知症などで判断能力を失った場合も同様の措置がとられる。

「お父さんが株を持っている会社、トップが不祥事を起こしたらしい。まずいぞ、早く売却しなくては」

そんなときも口座が凍結されている限り、一切売買できない。「父の代わりに私が運用しますから」などと主張したところでムダである。

「本人以外の人間が売買することは仮名取引、借名取引といって禁止されています。わかれば即、取引停止となることもあります」(福田氏)

もっとも、「成年後見制度」を活用すれば話は別だ。認知症となった高齢者などのかわりに成年後見人を立て、資産の管理を行える制度だ。ケースバイケースだが、家族が成年後見人になることもある。ただし、この場合も株の売却ができなくなるなど、制限がかかったりする。

口座が凍結する前にすべきこと(1)

では、親の口座が凍結される前に打てる手はあるのだろうか?福田氏は2つの方法を提案する。1つは親に生命保険に入ってもらうことだ。

「保険金は受取人固有の財産で、預金のように凍結されることはありません。また保険金は、請求後、だいたい3日から1週間で振り込まれますから、葬儀費用のほか当座の支払いに充てるにはよいでしょう」

なお、法定相続人以外に受取人を指定することも可能だ。

預金から毎月、保険料を支払えば相続すべき財産が減る。さらに、生命保険の受取金には相続税の非課税枠が設けられているため、受け取った金額が非課税の範囲なら、相続財産には加算されない。

非課税枠は、相続人ひとりにつき500万円だ。たとえば妻、長男が相続人なら、500万円×2人で1000万円、妻、長男、長女なら500万円×3人で1500万円まで、非課税で保険を受け取ることができる。相続人以外に受取人を指定することも可能だ。

口座が凍結されるまえにすべきこと(2)

もうひとつの方法は、あらかじめ親に“借金”しておくことである。

「たとえば親の預金から、前もって500万円を預かります。そして、介護費用や医療費、葬儀費用、親の生活費などにそのお金を充てます。このとき、必ず領収書を取っておき、相続の際、残りのお金とともに清算しましょう」

なお、まだあまり一般的ではないが、「家族信託」も遺言書に代わる方法として目下、注目されている。親の預貯金や株、債券、不動産などの資産を運用、管理する「受託者」を家族で決めることができ、スムーズに財産の承継を行えるようにする、というものだ。受託者と受益者(財産の運用、管理により利益を得る人)は同一人物でもよいため、家族の誰かが委託者になることもある。

相続が順調に行われれば、口座凍結問題も早めに解決できる。認知症の親を証券口座も適切に管理できそうだ。

「まだ数はあまり多くありませんが、最近は信託銀行が受託者となる家族信託商品も登場しています。今後増えれば、選択肢の幅も広がるのではないでしょうか」

もちろん、銀行が親の死を知らず、口座凍結を免れられることも多い。だが、亡くなる前後に口座からお金が引き出されていれば、

「お父さん、このときは意識を失っていたはずよ。お兄ちゃんが勝手に引き出して自分のお小遣いに使ったんじゃ?」

など、あらぬ疑いをかけられる可能性もないとはいえない。後々のトラブルを防ぐためにも、親が元気なうちに対策を立てておきたい。

がん5年生存率62.1% ゆるやかに向上

熊井洋美、川村剛志 asahi 2016年7月22日06時09分

国立がん研究センターなどの研究班は22日、がん患者を追跡した5年後の生存率(全国推計)を発表した。地域がん登録をしている都道府県のデータを集計するのは3回目。今回は2006~08年にがんと診断された21府県の約64万人を調査、全てのがんの5年生存率は62・1%で、過去2回より3~5ポイント高く、緩やかに向上している。

5年生存率は、がん患者で診断から5年後に生きている人の割合が、日本人全体の5年後に比べてどのぐらいかを示すもの。割合が高いほど治療で生命を救える効果があり、5年が治療や経過観察の目安の一つとされる。前回は03~05年に診断された7府県の約19万人で58・6%、初回は00~02年診断の6府県15・4万人で56・9%だった。

今回の集計を部位別にみると、前立腺が97・5%で最も高く、甲状腺、皮膚、乳房、子宮体部が続いた。膵臓(すいぞう)、胆囊(たんのう)・胆管、肺、肝臓が低かった。一方、悪性リンパ腫白血病、口腔(こうくう)・咽頭(いんとう)、肝臓などで初回からの改善幅が大きかった。

性別で見ると、女性は66・0%で、男性の59・1%より高い。同じ部位でも肺(女性43・2%、男性27・0%)や食道(女性43・9%、男性36・0%)で差が大きかった。

5年生存率が緩やかに向上した背景には、予後がよい乳がん前立腺がんが増えている面もあるが、部位別でもほとんどで過去2回より改善している。国立がん研究センターの若尾文彦・がん対策情報センター長は「治療法が改善され、検診で早期発見ができるようになった」と分析する。例えば、白血病で新しい薬が治療に導入され、肝臓がんでは局所療法に効果が出ているという。

若尾さんは「大腸がん肺がん乳がんでその後に分子標的薬や新しい抗がん剤が登場しており、次の集計ではさらに生存率の向上が見込まれる」と話す。

 

■主な部位別のがん「5年生存率」(%、年は診断された年)

2000~02年/03~05年/06~08年(今回)

◇口腔(こうくう)・咽頭(いんとう)

54.6/54.3/60.2

◇食道

33.2/33.7/37.2

◇胃

64.3/63.3/64.6

◇大腸

68.4/69.2/71.1

◇肝臓

27.1/27.9/32.6

◇胆囊(たんのう)・胆管

21.8/21.1/22.5

◇膵臓(すいぞう)

5.5/ 7.0/ 7.7

◇喉頭(こうとう)

77.8/75.9/78.7

◇肺

29.0/29.7/31.9

◇皮膚

90.9/90.9/92.4

◇乳房

87.7/89.1/91.1

◇子宮頸部(けいぶ)

72.2/72.2/73.4

◇子宮体部

79.2/79.8/81.1

◇卵巣

53.3/55.0/58.0

◇前立腺

84.6/93.8/97.5

◇膀胱(ぼうこう)

77.2/73.5/76.1

◇腎臓・尿路

65.4/65.7/69.1

◇脳・中枢神経系

32.7/32.6/35.5

◇甲状腺

92.1/92.2/93.7

悪性リンパ腫

54.6/58.7/65.5

多発性骨髄腫

29.0/32.6/36.4

白血病

32.1/37.3/39.2

◇全体

56.9/58.6/62.1

(対象者は00~02年が15万4022人、03~05年が19万404人、06~08年が64万4407人)

生活保護申請で「すみません」と頭を下げ続ける24歳

http://mainichi.jp/premier/business/articles/20160711/biz/00m/010/002000c?fm=mnm

大手住宅メーカーの正社員営業職の男性(24)から相談がありました。東京の有名大学を卒業して勤めていましたが、営業職として建築やリフォームの仕事を取ってくるノルマがきつく、2年目にメンタルをやられてしまいました。今は休職中です。

会社には営業職部隊が100人近くいて、成績が悪いと退職を勧奨されることもあるほど競争が厳しかったそうです。一生懸命やっていたのですが、上司に「前月より成績が悪い」「能力がない、辞めろ」というパワハラを受けていました。その結果、ある日の朝起きられなくなり、それから会社に行けなくなりました。

まじめな青年です。がんばって長時間働いていましたが、だんだん疲れてきて。職場では先輩もどんどん辞めていました。先輩のノルマが自分にかぶさり、さらに自分のノルマにも追われ、疲れてしまった。

出身は埼玉県、実家を出て1人暮らしをしていました。「会社に行けなくて休んでます。給料も出ないので家賃を滞納し、困ってます、実家にも帰れないし……」。親にも休んでいることを責められたと言っていました。

「がんばれ」と励まされてもがんばれない

この青年の親世代は50代以上、今の若者の状況をよく知りません。だから「なんで働かないの? がんばらないの?」と責めてしまう。「俺たちは努力して、がんばって、がまんして、10年の下積みに耐えたんだ……」みたいなことを言ってしまう。

すると子供は実家にも戻れません。ブラックな会社でひどい扱いを受け、家族にも理解されない。周囲に味方がいないのは、貧しさ以上につらいことです。

がんばって、みんなが豊かになって、夫の給料で専業主婦と家族を養えた高度経済成長は、わずか30年ぐらいしか続きませんでした。その記憶と成功体験が親世代の心と体に刻み込まれています。今から見ればかなり特殊な時期だったけれど、政治の現場にいる人たちも同じく、美しく輝いた時代だったのでしょう。

今、そのシステムでは社会がもちません。賃金とボーナスはそう簡単に上がりません。会社は非正規雇用を増やして人件費を抑え、正社員の数を減らして1人あたりの仕事を増やしています。中高年の仕事は、昔を懐かしみ若者に精神論を押しつけるのではなく、社会システムをどう変えればいいかを考えることです。

耐えられなかった自分を責める

彼は今、会社と労働組合を通じて団体交渉中ですが、「自分はがまんできなかったし、会社に貢献できなかった。耐えられなくて申し訳なかった」と、今も自分を責めています。さらに、「辞めたら食べていけない」という恐怖感にさいなまれてもいました。この洗脳を解くのは大変です。

「いや、あなた全然悪くないですよ、先輩たちも続かなかったし、早く辞めた方がいいですよ」と説得し、生活保護の受給を勧めました。一時的に生活保護を受け、体調を戻すことが先決なのですが、申請を勧めても信じてもらえません。

「こんな若い僕が、生活保護をもらえるはずがない。本当に受給できるんですか。それ以上に、もらったら申し訳ないじゃないですか」と言うのです。役所に付き添って申請に行ったときも「すみません、すみません」と何度も言っていました。

逃げ場のない状態のまま、無理に仕事を続けると、精神的に抑圧されてうつ病などの精神疾患を発症する恐れもあります。

中小企業の従業員とその家族が加入する健康保険団体「全国健康保険協会」(略称・協会けんぽ、加入者数約3600万人)が、2014年に公表した「傷病手当金受給者の状況について」によると、受給原因でもっとも多いのは「精神及び行動の障害」2万2161件で、全体の25.7%でした(13年データ)。

第1次就職氷河期と言われる98年には5505件でしたから、広い意味での「心の病」で傷病手当金を受ける人が、15年間でおよそ4倍に増えたことになります。

心と体を壊す前に、使える制度を知っておく

うつなどになって仕事を休み、収入がなくなった人は、条件が合えば健康保険から傷病手当金を受け取ることができます。原則、収入の約6割にあたる金額を最長で1年6カ月間受け取れる制度ですが、あまり知られていません。

傷病手当金について

一度病気になると復職まで長い時間がかかります。つらい仕事を必要以上にがまんしない、病気になりそうなら早めに休んで傷病手当金を申請するか、きっぱり仕事を辞め、生活が苦しい場合は生活保護など諸制度をうまく使って、心と体の健康を取り戻すことが大事です。

今回、生活保護を申請した24歳男子は、窓口の担当者に「とりあえず保護をもらって、暮らしを立て直してください。早く働けるようになるといいですね」と励まされ、ぼろぼろ涙をこぼしました。

「そんな優しいことを言ってもらったの、初めてです……」

<「下流化ニッポンの処方箋」は原則毎週1回掲載します>

若者の貧困を放置したらいずれ日本は大混乱

「ブラックバイトと奨学金」生存をかける学生たち

ふつうの会社員がある日介護で「下流」に転落する

離婚、認知症、孤立……銀行員を襲った老後の貧困

「貧困」を放置すると社会の負担はさらに増える

30代共働き部下を「使えない」と責めるバブル上司の罪

藤田孝典

藤田孝典

NPO法人ほっとプラス代表理事

1982年生まれ。NPO法人ほっとプラス代表理事、聖学院大学人間福祉学部客員准教授、反貧困ネットワーク埼玉代表。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員。ソーシャルワーカーとして現場で生活困窮者支援をしながら、生活保護や貧困問題への対策を積極的に提言している。著書に「下流老人 一億総老後崩壊の衝撃」「ひとりも殺させない」「貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち」など。