開明されていないものを、開明されたものとして扱い、pcr検査での陽性者を感染したと世界の指導者が扱い人々を騙し続ける社会に対して、流民のごとく流されていく風潮は、止めることが非常に難しい。分子生物学の泰斗でさえ、ここまでの論が限界なのだろう。

福岡伸一さん、ノーベル賞から考える から引用。

世界中が新型コロナウイルスの感染拡大に悩まされている今年、ノーベル医学生理学賞に「C型肝炎ウイルスの発見」が選ばれた。人類が病気の原因であるウイルスをどう見つけ出し、戦って

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C型肝炎ウイルス=国立感染症研究所提供

きたのか。生物学者の青山学院大教授の福岡伸一さんに、ウイルス研究の奥深さを聞いた。

■検出・薬…C型肝炎50年の歴史、コロナも覚悟を

 いま私たちは新型コロナウイルスに直面し、世界中が混乱しています。1970年代まで、C型肝炎ウイルスも未知の「新型」ウイルスでした。検出法も治療法もなく、どう対応したらよいかわからない。暗中模索の状況で、恐れられていました。この二つを重ね合わせてウイルス研究について考えてみます。

 このノーベル賞には、研究の時間軸が如実に表れていると思います。当時、ウイルス性の肝炎が存在していることは知られていて、A型とB型に分類されていました。けれども、A型、B型のウイルスがない患者の血液でも、他の人に輸血すると肝炎になることがありました。「非A非B型

」肝炎と名付けられましたが、原因のウイルスはなぞのままでした。 

  • 写真・図版それを突き止めるためには、小型の実験動物であるマウスやラットに感染させて実験する必要がありますが、研究はなかなか進みませんでした。そんな中、今回の受賞者の一人、ハーベイ・オルターさんたちはチンパンジーなら感染することを見つけ、動物で実験する仕組みを確立しました。70年代後半の話です。

 コロナウイルスだったらトゲトゲがあります。こうした形が見えて初めてウイルスの存在は明らかになりますが、C型肝炎電子顕微鏡で見てもウイルスの粒子が見当たりません。ずっと後になり、粒子の大きさが不ぞろいで、ウイルスを集めることが難しいことがわかりますが、当時はなぞは深まるばかりでした。

 次の展開が起こるまでに10年以上かかります。共同受賞のマイケル・ホートンさんは当時ベンチャー企業に勤めていました。ホートンさんの研究成果は、私が米ロックフェラー大のポスドク(博士号を持っている研究員)時代に華々しく発表されたので、とても印象に残っています。当時すでにPCR法は開発されていましたが、未知のウイルス遺伝子は検出できません。それが大きな壁でした。

 <一粒の砂金探し> ホートンさんたちは、肝炎になったチンパンジーの血液にウイルスの遺伝子が紛れ込んでいるに違いないと考えました。これはたくさんの砂のなかから一粒の砂金を探すようなものです。気の遠くなるような作業の末、ホートンさんたちはとうとう遺伝子の断片を見つけました。これがC型肝炎ウイルスの発見です。

 さらにホートンさんたちがすごいのは特許の取り方です。たんぱく質は自然物なので、当時、まるごとで特許をとるのはなかなか認められませんでした。そこでたんぱく質の配列を細かく区切って、これらすべての特許をとりました。これにより他の製薬会社が追随できませんでした。

 C型肝炎のウイルスの正体が明らかになり、遺伝子もたんぱく質も判明したので、輸血によるC型肝炎の感染を予防できるようになりました。でもこの段階ではまだ有効な薬はできていません。

 そこでもう一人の受賞者、チャールズ・ライスさんの登場です。実は個人的にも知っています。ライスさんは私がニューヨークで研究拠点にしているロックフェラー大の先生です。ライスさんが2001年から研究している部屋は、かつて私が研究していた部屋でなじみがあります。

 私はロックフェラー大に客員教授として戻った7年前から、ライスさんとは度々お会いしています。毎日、ライスさんはよくほえる茶色の犬を連れて研究室にやってくるんです。教授室で放し飼いにしているので、研究員や大学院生たちも割と迷惑がっているのではないでしょうか。

 <確定への三原則> 話を研究に戻します。病原体の確定には「コッホの三原則」というものがあります。原則その1は、患者や動物から病原体が見つかること。その2は、その病原体だけを取り出し、単一の実体があることを確かめること。その3は、取り出した病原体を健康な動物に接種したとき、同じ病気になり、再び病原体が検出されることです。いま流行している新型コロナウイルスについても、コッホの三原則に基づいて考えなければなりません。

 ライスさんはこのウイルスを実験動物に投与すると発症するという、コッホの三原則の一番大切な三つ目を立証しました。

 もう一つの大きな業績が、試験管でこのウイルスを複製する仕組みをつくったことです。それが薬の探索に大きく役立ちます。画期的な新薬ハーボニー(一般名レジパスビル・ソホスブビル)が承認されたのは2014年です。ざっと50年ほどの研究の歴史が一つのウイルスをめぐってなされているのです。この薬の開発も将来のノーベル賞になる可能性があります。

 遺伝子研究の技術は大幅に進んでいますが、ウイルスの正体を明らかにし、薬が開発されるまでには、長い時間が費やされることがわかります。新型コロナウイルスに悩まされている私たちも、「年末までに」とか「来年までに」という解決は幻想です新型コロナウイルスインフルエンザのような身近なものに変わるにはまだまだ時間がかかることをC型肝炎の研究の歴史が教えてくれています。新型コロナウイルスに対する研究も、長いスパンで対峙(たいじ)しなければならないことを覚悟する必要があると思います。(談)

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 ふくおか・しんいち 青山学院大教授、米ロックフェラー大客員研究者。専門は分子生物学。1959年生まれ写真・図版。京都大農学部卒。京都大助教授などを経て現職。著書に「生物と無生物のあいだ」「動的平衡」など。

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