熱狂メタバース、エヌビディアやマイクロソフトも参戦

と併せて見ると良いだろう。高次元の宇宙とは聞こえは良いが、所詮は寡頭社稷の徒花。

仮想空間「メタバース」の開発競争が熱を帯びてきた。100兆円規模に膨らむと期待される新市場には、米エヌビディアや米マイクロソフトが本腰を入れて参戦し、インターネットや人工知能(AI)を制した巨大テック企業の新たな主戦場になっている。事業開拓が進む一方、期待通りに市場が拡大するには課題も多い。

「仮想空間の広さは現実世界を超える規模に膨らむ。クリエーターは仮想空間でより多くの創作物を生み出す」。9日のイベントで、エヌビディアのジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)はこう強調した。同社はGPU(画像処理半導体)を武器に、主要市場をゲームからAIに変遷させてきた。次に狙いを定めたのがメタバースだ。

同社はメタバースを制作するためのツールを提供する。すでに独シーメンス・エナジーやスウェーデンのエリクソンがエヌビディアとメタバースを構築している。インターネットの登場で個人や企業がホームページを持ち、利用者は自由に移動している。今後は独自のメタバースづくりが進み、利用者はメタバース間を往来するとみる。

メタバースは「メタ(高次元の)」と「ユニバース(宇宙)」を組み合わせた造語だ。自分好みに着飾ったアバター(分身)で交流したり、音楽ライブを鑑賞したりする新しい消費空間になる。遠く離れた従業員が共同作業するバーチャルオフィスにもなる。ゴーグル型の仮想現実(VR)機器やスマートフォンで利用する。

「フェイスブックはメタバース企業になる」。メタバースを一躍有名にしたのは米メタ(旧フェイスブック)のマーク・ザッカーバーグCEOによる「メタバース宣言」だ。2021年だけでメタバースに100億ドル(約1兆1000億円)を投資し、欧州では5年間で1万人を採用して事業を推進する。

ザッカーバーグ氏はメタバース事業に賭けるが…

テック企業はこぞって触手を伸ばす。マイクロソフトはチャットアプリ「チームズ」に仮想空間で会議などができる機能を22年に加える。「メタバースは1990年代初期のネットとよく似ている」とサティア・ナデラCEOも期待をかける。

米クアルコムは半導体セットをメタ子会社のVR機器向けに売り込む。「メタバースへの入場券になる」(クリスチャーノ・アモンCEO)。米ウォルト・ディズニーも参入に意欲を示した。

マイクロソフトは22年に、チャットアプリ「チームズ」でアバターで打ち合わせができる機能を追加する

メタバースの一つ「ディセントラランド」は購入した「土地」に建物を自由に建てられる。既に多くの企業が進出し、美術館やカジノを運営。アバター服のデザイナーやデジタル建築の設計士など新しい職業も生まれている。歌手のきゃりーぱみゅぱみゅさんらを輩出するアソビシステム(東京・渋谷)も拠点づくりを進める。「将来はメタバースから若者のトレンドが生まれるかもしれない」(中川悠介社長)

メタバースには、10年代に進化したデジタル技術やサービスの知見が集まる。土台にあるのはVRで培った技術だ。米エピックゲームズの「アンリアルエンジン」などCG(コンピューターグラフィックス)の制作ツールも充実し、クリエーターなどを呼び込む。

メタバース経済圏には、ブロックチェーン(分散型台帳)も不可欠だ。作者や権利の移転情報を記録してコンテンツを唯一無二だと証明する「NFT(非代替性トークン)」なら、デジタルアイテムの流通量を制限したり、取引履歴を容易に残したりできる。

仮想空間で意思疎通しやすい技術もそろってきた。アバターの表情を豊かにするため、パソコンなどのカメラで利用者の目や口の動きを捉えてアバターに反映する。近年、「Vチューバー」の配信で活躍する技術だ。

SNS(交流サイト)の普及に加え、コロナ下の外出抑制もデジタル空間の交流を促した。「メタバースはSNSの延長だ。日常生活で使うサービスになる」(グリーの荒木英士取締役)

メタバース市場は急拡大が見込まれている。カナダの調査会社エマージェン・リサーチは20年の477億ドル(約5兆5千億円)から年平均43%で伸び、28年には8290億ドル(約95兆円)まで膨らむと予測。VRなどのハードに加え、仮想空間上のアイテム購入や電子商取引(EC)、音楽ライブなど娯楽・サービスも市場をけん引する。

熱狂を象徴するのが仮想空間上の「土地」の急激な値上がりだ。今年6月にディセントラランドの土地が91万ドル(約1億円)で取引され、話題を呼んだ。

仮想空間サービスでは00年代半ばに流行した米リンデンラボの「セカンドライフ」が有名だ。仮想空間の土地売買などは最近のメタバースとも共通する。ただ、当時としてはパソコンに求められる性能が高かったり、金銭を巡るトラブルも起きたりして、利用者数が思うように伸びなかった。

多くの企業が続々と進出し、投資を呼び込むバブルのようなメタバースの現状は当時と似ており、先行する期待に見合う成長を示していく必要がある。

収益化に時間、ハード普及も壁

メタバースへの期待が過熱する一方、収益を生むには時間がかかることや現状で利用時に使うハードの普及が課題だ。
あたかも仮想空間に自分自身がいるかのような高い没入感を得るにはVR機器を利用するのが最適だ。メタ子会社が20年に発売したVR機器は最低価格が4万円弱で、累計販売は1000万台に近づく。ソニーグループもゲーム機「プレイステーション5」とつなぐ最新機を準備する。ただ、ゴーグル型の機器は体の負担が重く、本格普及には眼鏡型が必要との見方もある。
「NFTの所有権は認められておらず、(今後は)ガイドラインなどが必要となる」と指摘するのはTMI総合法律事務所の五十嵐敦弁護士だ。日本法ではデジタル資産に所有権がなく、仮想空間で購入したアイテムや土地の権利をどう保護するかは議論の余地がある。国境のないメタバースにどの国の法律を適用するかも曖昧だ。
仮想空間への没入を狙うメタバースを非難する声もある。街中を歩いて遊ぶ人気ゲーム「ポケモンGO」を開発したナイアンティックの川島優志副社長は「人々に屋外に出てもらい、新しい目で世界を見るきっかけをつくりたい」と話す。デジタル技術が進化する中でも「現実世界あってこそ」を強調する。
メタのクリス・コックス最高製品責任者はメタバース計画の実現に「5~10年、あるいは15年の期間が必要」という。メタバースが軌道に乗り、収益を生み出す段階まで育つには、これらの課題の克服や環境整備が先決だ。セカンドライフの二の舞いは避けたい。
(新田祐司、下野裕太、落合修平、藤生貴子)

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