年金の将来を考える

参議院選挙の争点の中に年金問題がありますが、国民ががあらためて生存のための労働の価値・意味を理解する良い機会ということではないかと思います。年金受給者は既得権として考えるだけでなく、何らかの形(就労を含む経済活動に参加することも含め)で付加価値の創造に積極的に参画することが不可欠となった時代に直面しています。そこで、現在の老齢年金が残高の状況を含めてどのような状況にあるのかを整理してみました。

老齢年金残高の推移

低成長経済下、年金の保険料収入が生産労働人口の減少に伴い減っています。年金額を現役時代の賃金の60%台を確保する為に、保険料を上げればよいというやり方では年金行政を維持できないことは火を見るまでもなく明らかです。このため現在は、あらかじめ保険料収入の上限を見通した上で、年金額を確保するという方式に変わってきています。

つまり高度成長時代の給付水準60%台のままというわけではなく、物価や賃金が上がっても、年金はそれよりも上げ幅を下げ(現役世代の賃金の上げ幅と年金額の上げ幅の差を広げ)、年金額の割合は長期的に50%に近づけるというマクロ経済スライド調整が今は導入されています。

マクロ経済スライド調整というのは、少子高齢化による年金受給者の増加で生じた年金給付の負担増と、被保険者の減少による負担能力の減少を考慮の上で、年金額を自動的に調整するものです。しかし、年金受給者の受け取る割合がいきなり50%にまで直線的に下がっていくというものではありません。(経済成長が止まれば、限りなくそれに近づくでしょうから、100年安心というわけでもありません)

現状では、例えば左図ならびに下表のように物価が1%上がって、賃金が0.6%上がった時に、マクロ経済スライド調整が0.5%なら、賃金の0.6%から0.5%下げて0.1%の年金の伸びにするというものです(名目上は下がりませんが実質では下がります)。賃金幅にできないのは負担者が人口減少で減るためです。

物価変動率 2018年の物価変動率 1.0%
名目手取り賃金変動率 2018年の物価変動率1.01 X 実質賃金変動率(2015~2017年度の平均)0.998 X 2016年度の可処分所得割合変化率0.998 0.6%
スライド調整率 公的年金被保険者数の変動率(2015~2017年度の平均)1.001 X 平均余命の伸びを勘案した一定率0.997 ▲0.2%
未調整分のスライド調整率 2018年度分の繰り越し ▲0.3%
年金改定率 0.1%

ところで最初の老齢年金残高の推移画像を拡大してみて下さい。年金残高は簿価ベースですが、平成1年73兆円→平成11年144兆円から→平成29年119兆円(時価ベースでは161兆円)と変遷しています。GPIF年金機構が保有する株式を売れば、時価ベースで伸びているという理屈もありますが、実際には売ることはそう簡単ではありません。

経済が堅調であれば良いですが、インフレターゲットをなかなか達成できない経済与件が山積している中、国民の貯蓄性向が極端に高い我が国では、投資性向が高まらない限り、株価の上昇は望めず(平成の初め頃の東証における1日の取引株数は20億株を超えていましたが、現状はその半分にもなっています)、経済成長は、国民参加で図る必要があり、地方の政治を含めた民力を高める試みが大切ではないだろうか。75歳を後期高齢者とする定義なども、この30年で平均寿命が10歳は延びていることからも85歳に変更していくことも必要ではないだろうか。

例の老後の資金2000万円は、個々人の問題で差ほど気にする事ではありませんが、不労所得の議員や、行政の無駄使いに目を向け、福祉に回すことに目を向けていくことの方が大切かと思います。またマクロ経済スライド方式は年金支給の公平感に十分に手をつけてはおらず、高額受給者に対しての減額方式の見直しなども考えて良いのではないだろうか。

2019年現在の年金支給月額の最新情報は、国民年金支給額の平均が55,464円、厚生年金支給額の平均が147,927円となっています。合計20万円です。

マクロ経済スライドはよく練られたスキームと思いますが、所得代替率をきめ細かく運用するという視点も大切と思います。

公的年金の給付水準は所得代替率という考えに基づき算出されます。所得代替率とは左図のように、給付開始時点の年金額を、現役世代の平均手取り収入額(賞与込み)に対する割合で示したものです。現状ではその値が平均値で約60%です(所得の高い人は約50%で止まっています。)。

一般に高所得世帯は個人年金や貯蓄などで老後に備えることができますが、所得の低い世帯は十分な老後の備えをすることが困難です。そのため公的年金では、世帯構成や現役時代の所得の違いを考慮した運用が一応は行なわれています。
高額受給者の所得代替率は一定の水準以上では下限を外し、低所得者の原資にまわすなどの考えがあっても良いのではないだろうか。

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